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私どもの仕事
紙資料の保存修復とは

資料はどのように保存され利用されるのでしょうか。また、物質としての資料を修復するとはどのような意味があるのでしょうか。

ここでいう紙資料とは、ある物事の記録や、その情報をひとに伝達するために、紙を支持体として情報を載せたものを指します。書籍・文書・簿冊・地図・新聞・ポスター・ラベル・設計図面など多様な形態を持つ紙資料には、時代や用途により、様々な紙とイメージ材料が使用されてきました。

主として有機物から成る紙とイメージ材料は、時を経ることで外部からも内部からも物理的・化学的に劣化していくのですが、その劣化を食い止めるための様々な保存修復処置も昔から行われてきました。科学技術の進歩は、酸性紙に代表される内部的な劣化要因をもたらす一方で、劣化のメカニズムの分析とその修復処置をより科学的なものにしてきました。現在では、保存修復処置の基本原則(資料の現状および処置の記録化・非破壊的可逆的処置の選択・原型保存の優先)に立ちながら、それぞれの処置法では試行錯誤はあるものの、科学的な知見を正しく踏まえた処置を行うことが必要とされています。こうした科学的な知見と、きめ細やかな手作業とが組み合わさって、はじめて紙資料の修復が可能となります。

しかし、現物資料の修復処置がすなわち資料を保存するということにはなりません。実際の仕事の中で、まず最初にしなければならないことは、その資料をどう直すのかではなく、その資料が現在および未来に、どのように利用されていくのかを考えることです。利用されるのは間違いなくその資料の「情報」ですが、現物そのものの情報が必ず必要であるのか、一時的なものなのか、全く必要ではないのか。このような「利用」への考察があれば、適切な保存容器への収納といった予防的処置、最小限の修復手当を施すといった回避的処置、複製物や他のメディアへの媒体変換処置、といった様々な選択肢の中に、現物資料への修復処置が正しく位置づけられるようになります。しかし、こうした考察なしに、修復処置を採るとすれば、逆に他の多くの資料の救済を遅らせ、利用から遠ざけることになるかもしれませんし、その資料から得られる豊穣な、残すべき情報が失われたり、過剰で意味のない修復を行ったりする危険性を孕むことになります。

資料保存の考え方や科学的知見に基づいた技術の方向が定まり、いろいろな選択が可能となった今、利用・保存・修復に携わるそれぞれの人々の知恵と技術の思慮深い連繋がその資料をよりよく活用するために重要な役割を果たしてくるのではないでしょうか。そして、修復処置は、その考察の後の選択肢の一つでしかあり得ません。
株式会社紙資料修復工房


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