資料の劣化の状態や利用状況にあわせ、資料自体に修復処置を施すことのほかに、マイクロ化、デジタル化、ハードコピーやレプリカの作成などの媒体変換をおこない、それらを利用することは、利用の拡大と共に資料自体への物理的劣化の軽減にもつながります。その場合でも、オリジナルの資料には化学的劣化要因から遠ざけるために保護的な保存処置（保存容器への収納や脱酸性化処置）をおこなうことが理想です。 　 黴害のため脆くなった資料。 　 簡易レプリカを作成。 　 マイクロフィルム。 　 デジタル媒体。

●マイクロ化 複製物としてマイクロフィルムを撮影、作成すること。 ●デジタル化 アナログ情報をデジタル情報に加工すること。 ●ハードコピー マイクロ化・デジタル化されたものを再度紙媒体に焼き直したもの。 ●レプリカ 現物資料の複製物のこと。

保存修復処置をおこなったのちにも剥き出しの状態では取り扱いに不安がある資料には、 不活性の透明ポリエステルフィルムで両面から挟み、封入します。この処置は化学的にも脱酸処置後の資料を酸素から遮断することで劣化を遅らせることができ、また、アルカリに接することで変化してしまうおそれのある資料を保護するという意味で有効な処置と考えられます。透明なのでそのまま閲覧や展示等、複製物の作成ができ、フィルムの四方または二方を超音波でシーリングしてあるだけなので、必要ならば資料を封入前の状態に簡単に戻すことができます。エンキャプシュレーション処置で注意しなければならないことは、脱酸性化処置がおこなわれていない酸性紙に、この処置を適用すると、酸性紙が劣化・分解してゆく過程で発生する酸性物質が、逆に資料の劣化要因となる可能性が考えられることです。アルカリに弱く脱酸処置ができないシアノタイプ（ブループリント）などの資料にエンキャプシュレーション処置を施す場合は、ノンバッファー紙と酸性物質吸着紙やアルカリバッファー紙などを組み合わせ、資料裏面に共に封入することで資料からでる酸性物質を吸収させることが必要になります。 また、このエンキャプシュレーション処置はパステルなどの粉状の筆記具で書かれた、表面の状態が脆弱な資料や浮世絵など表面の凹凸が資料の一部分であると考えられるものにはおすすめしていません。 　 超音波によるフィルムシーリング。 　 処置後。 　 処置後。 　 ジアゾタイプ、シアノタイプ等の処置。

●ポリエステルフィルム 無色透明で劣化が少なく安定した素材であるポリエステルをフィルム状にしたもの。 ●酸性紙 劣化の原因となるロジン・硫酸アルミニウムなどをサイズ剤・定着剤として作られた弱酸性の紙。 ●ノンバッファー紙 無酸でアルカリも含まない紙。 ●アルカリバッファー紙 アルカリバッファー処理をされた紙。

資料はアルカリバッファー紙ボード（pH8.5以下）で作成した保存容器に収納します。例外として、写真資料、シアノタイプ（ブループリント）などアルカリに反応する可能性のある資料やアルカリに弱い色材が使われている資料にはアルカリバッファーされていないノンバッファー紙と、アルカリバッファー紙ボードとを組み合わせ、作成します。また、調湿紙や調湿ボード、酸性物質吸着紙などを組み合わすなど、容器の形は資料の状態、形状、利用状況にあわせ、さまざまなものが考えられます。保存容器への収納は、資料の劣化要因である温湿度の変化や大気中の酸性汚染物質、光、埃などから資料を保護し、物理的な保護という意味でも有効です。 　 アルカリまたは中性紙で作られた太巻き芯に巻きなおした巻子。 　 綴じのゆるくなった本も箱に入れることで固定される。 　 両面書かれている資料は窓を切った2枚のボードの間にごく薄い典具帖紙によって吊り上げられ固定される。 　 エンキャプシュレーション後にフォルダー形式に仕立てた資料。

●調湿紙／調湿ボード 表面が多孔質で、ある限られた環境の急激な湿度の変化を緩やかにする作用のある紙やボード。 ●酸性汚染物質 大気中の硫黄酸化物や窒素酸化物のこと。

処置前の状態および処置作業行程の記録化は資料の長期保存の上で、とても大切なことです。写真を貼付し、処置に必要とした材料を一覧したものを作成、ドキュメンテーションとして提出します。 　 　 処理前の状態および処理作業行程がわかる説明書き。 　 説明書きとともに、写真を貼付し、処理に必要とした材料を一覧したものを作成、ドキュメンテーションとして提出する。